代わりというのも変ですが、前言っていた、妙な話の1話目を置いておきます。
まだ校正してないので酷い事になっていそうですが……。
また改めて掲載します。
今回のテーマは環境問題です。
全く、今日は本っ当についてねぇ。
俺は昼間の出来事を振り返って、改めて思った。
「貴様等の行為は環境を破壊している! 悪だ!」
とか、訳の判らねぇ事を叫んで事務所に入って来た男に絡まれた。だが俺だって一歩も譲れなかった。俺は環境に貢献する仕事をしていたんだからな。
俺は長曾我部元親。友人の伊達政宗と一緒に上京し、大学で学び。まぁ色々有って、最終的に俺は伊達と組む事になった。伊達の立ち上げたビジネスは、簡単に言えば、エコハウスの建築だ。
太陽光発電、太陽熱温水器、風力発電、自動節電装置。もっと簡単なところでは、旧日本型建築を現代風にアレンジして、住居そのものを日本の気候に合わせて、快適な物を作る仕事だ。
伊達は営業あたり、伊達のお守りさんらしい、片倉小十郎が経営、そして俺が設計と現場の担当をして、それなりに業績も上げている。つい最近には企業の事業所からも依頼が来て、屋根を全面ソーラーパネルにしてやるというでかい事もやった。
そんな俺達の事務所に、いきなり突入して来て、「環境を破壊している!」だなんて喚く奴、正気の沙汰じゃねぇ。
なんとか追い出そうとしたが、相手も必死で暴れるもんだから、観葉植物は倒れるわ、窓は割れるわ。器物損害の現行犯で逮捕されていった。ざまあみろ、賠償金も取ってやる。
とまぁ俺は大いに怒っていたのだが、仕事が終わって、帰宅するため会社を出た時、あぁと思わず溜息を吐いた。
コレだけ暑けりゃ、正気を失う奴も居るだろうさ……。
5月だってのにクソ暑いこの都会のド真ん中で、俺は小さく溜息を吐いて、自分の車に乗り込んだ。
ガソリン代め、値上がりしやがって、とブツブツ呟きながら、俺は夕飯のインスタント食品を買い込んで、帰宅した。
俺のマンションは8階建てで、その最上階に俺の部屋が有る。そこそこ広いし、壁も厚い。洒落ているから、女を連れ込んでも楽に落とせる。そういう意味では、その地震が起きればやたらに揺れる部屋も気に入ってはいた。
指紋認証をクリアして、エレベーターに乗り込み。そして最上階へ。自室の指紋認証と、鍵を使って玄関を開ける。全く、ここまでしなきゃいけねぇなんて、物騒な世の中だ。まぁ、安全だけはいくら金を積んでも買ったほうがいいと親父が言っていた。だからそうなんだろう。
親父は一度空き巣に入られて、居直り強盗されそうになったのだ。幸い、親父の根気良い説得で、空き巣は改心し、一緒に酒まで飲んで、今でも交流が続いているという。全く、偉いというかバカというか、良く判らねぇ親父だ。
部屋に戻ると、玄関の電気を付ける。ただいま、と言うのもあほらしくなって随分経つので、俺は無言で靴を脱ぐと、冷蔵庫の側に荷物を放り捨てた。すぐに風呂場に向かい、電気を付けると、バスタブに湯を注ぐ。風呂が準備できるまでに、夕飯……と俺はキッチンでビニールをあさっている時、その存在に気付いた。
リビングの、カーペットの上に。何か、転がっているのだ。
朝、俺が出かける時には、そんなもの当然無かった。俺は不審に思って、リビングの電気を付けた。そして俺は背筋が冷たくなるのを感じた。
カーペットに、人が転がっていた。しかも、緑の着物を纏った、華奢な人間だ。ちょうど俺に背を向ける形で転がっているため、男か女かも判らない。が、とにかく人間だ。くったりと眠るように、体を横にして、倒れている。
まさか、と俺は思った。
二重三重のロック機構、ましてやここは8階、空き巣が入って来れる可能性は殆ど無い。第一、着物姿で空き巣に入って、しかも住人が帰って来ても寝てるなんてそんな馬鹿な事。
そこまで思って、俺はまたしても冷たくなった。
もしかして、死んでる、のか……?
物音がして、明かりがついても、その人物はピクリともしない。もしかしたら、死体なのかもしれない。だとしたらもっと話は厄介だ。何で俺の部屋に死体が転がってる? 万が一あれが死体だったら、俺はどうすりゃいい、素直に警察に届け出たら、容疑者として手錠をかけられるんじゃ……。
そんな事を考えている間に、どんどん時間は過ぎていっていた。冷房をまだかけていない部屋は蒸し暑く、自然と汗が出たが、その全てが暑さによるものじゃあなかった。
どれだけ俺はそこで呆然としていたんだろう。ザバー、という音に俺はハッとして、風呂を見た。湯が溢れている。俺は大慌てで湯を止めて、そして、恐る恐るリビングを覗いた。やはり人が居る。
俺はしばらくどうしたものか悩み、携帯を開いた。伊達を呼ぼうか、警察を、……いや、とりあえず、安否を確認してみよう……。
そうっと、リビングに踏み込む。それでも反応は無い。
「……あのーぅ……、も、もし、もし……?」
試しに声をかけてみた。と、それには反応が有った。体がピクリと動いたのだ。
生きている。
とりあえずその事に安心して、けれど警戒したまま、俺はその人物に近寄った。
「あ、あんた……誰だ? 俺の部屋に、なんで……?」
少し離れた所から、人物の顔が見える角度に回り込んだ。
彼、であると思う。なぜかと言うと、しどけなく乱れた着物の中に、平べったい胸が見えたからだ。彼女だったらとんだセクハラでは有るが、どちらにしても、無断侵入した彼の方が充分悪いので、裁判沙汰になっても勝てるだろう。
俺がそんな事を考えていると、彼は、呟いた。
「もと、ちか……?」
掠れた声だった。病気の人間のような声だ。良く見れば、彼の顔色は悪い。心なしか呼吸は浅く速いし、もしかしたら病人なのかも……と思って、その恐怖に凍りついた。
「な、なんで、俺の、名前……」
安全のために、表札などは掲げていないのだ。辛うじて上の名前は、各所でバレる可能性は有るが、下の名で呼ばれるような事、あるはずが無い。人の顔は良く覚える方だ。間違いなく、この男に見覚えは無い。なのに、男は俺の名前を知っている。
男は俺の恐怖も質問もお構い無しに、もう一度「もとちか」と俺の名を呼ぶと、今度は、
「みず、……みず、が……」
と呟いた。
「水? ……あんた、喉が渇いてるのか?」
尋ねるが、やはり答えは無い。俺は溜息を吐いて、辺りを見渡して、荒らされた形跡が無い事を確かめると、言った。
「待ってな、今、水を汲んできてやるから……事情聴取は後だ」
その姿があんまりにも可哀想で、俺はそう言うと、キッチンに戻って、コップに水を満たし。
「ほら……っ」
そしてリビングを振り返って、そこに何も居ない事に、今度は本格的に、鳥肌を立てたのだった。
+ この暑き夏に捧ぐ +
あれは、蜃気楼だ。きっと。あまりにも暑くって、あの部屋が暑くって、風呂場の湯気で蜃気楼を見たんだ。幻だ。あるいは俺も軽く熱中症にかかってしまったんだ。全部この猛暑のせいだ。ああそうだ。
俺はそう自分に言い聞かせた。が、俺は昼休みになると、会社の側の小さな神社へ入ってしまっていた。じゃらんじゃらんと小銭を投げ込んで、「すいません俺が何をしたか判らないですが俺にはどうにも出来ませんお願いです成仏して下さいごめんなさい」と必死で手を合わせた。
「Hey、チカ! どした、信心にでも目覚めちまったのか?」
と、通りかかった。伊達に声をかけられた。小十郎さんも一緒だ。その手には弁当。
「伊達、どしたんだ?」
「神社って超涼しいんだぜー。木陰で弁当食うの」
それバチ当たらないか? 俺は顔を顰めたが、「ちゃんと掃除して帰れば怒らねぇと思うよ」と伊達が言うので、とりあえず同行してみた。
伊達は小十郎と手作り弁当を食っているようだ。木陰に腰掛けて、静かに飯を食う。食い終わったらちゃんと片付けて、帰る前には境内のゴミを拾って帰るのだそうだ。それは小十郎さんの指示で行われているらしい。
「んで? どしたんだよ。何をお願いしたんだ?」
伊達が食後のコーヒーだという水筒の中身をカップに注ぎながら聞いてきた。ので、俺も渋々答える。
「実は……」
「実は?」
「昨日、……見ちゃったんだ」
「何を?」
「……ゆうれい」
「HA? Ghost?」
伊達はきょとんとした顔をしたが、やがてギャハハ、と盛大に笑い出す。
「な、何が面白いんだ!」
「HA、悪ぃ悪ぃ……安心しな、チカ。お前にゃあ守護霊は憑いても、幽霊は憑かねぇよ。そういう気配がすっからな」
そうなのだ。伊達は小さい頃眼病で片目の視力を失ってから、霊感が少し有るらしい。見えない物が見えたり、感じない物が感じたりする程度らしいが。その伊達の勘によれば、俺には自縛霊や幽霊という、所謂悪い霊が憑いている感じはしない、という。
「守護霊?」
「おう。大抵はご先祖様だけどな。チカってなんだかんだ言って、順風満帆じゃん? 守ってもらってるんだと思うぜ。幽霊見たってんなら、そりゃあ守護霊様かもしれねぇ。お礼でも言っとけや」
「で、でもよ」
俺は昨日見た幽霊を思い出して言った。
「守護霊って普通、俺に引っ付いてるもんだろ? アイツは、俺の部屋に転がってたんだよ。しかもなんか、病気みたいで、辛そうで。で、水、水って、訴えてて……」
「Oh~……そりゃ、守護霊及びご先祖様からのメッセージって奴かもな。何かの理由で、そいつの本体が脅かされてるんだ。それで、生きてるチカに助けを求めに来たんじゃないか?」
「本体?」
「ま、ご先祖様なら、墓、仏壇……家とか。あるいは子孫の誰か……とか。とにかく、チカに関わりが有る何かが、脅かされてんだ。……チカ、そのメッセージは無視しないほうがいいぜ」
「何でだよ?」
「チカを守ってる神聖な力が脅かされるんだ。放ったらかしにしといたら、いつかはチカの身に跳ね返ってくるぜ。いつも守ってもらってた、礼をしとかなけりゃな」
「礼???」
俺が首を傾げると、伊達は溜息を吐いて言った。
「全く、近頃の日本人ってなぁ、信心とか足りねぇよなあ。お前を育ててくれたのは故郷の土だろうが。今度休みやるから、里に帰ってみな。きっと何か変わってるはずだ。……ああ、それより先に。もう一度その幽霊に有ったら、良ーく話せやな」
境内で弁当食う奴に言われたかねぇよ、と俺は思いながらも、頷いた。
本当は、幽霊が出てこない事を祈っていた。恐る恐る玄関を開いて、リビングを見る。幸い、今日は転がってない。ふぅ、と安心して溜息を吐いて、俺はまた風呂に湯を張ろうとして。
このパターンは、昨日も。
そう思って、バッとリビングを見て。
「もとちか……?」
そして、やはり床に転がっている、彼を見つけてしまった。
「……あんた、……あんた、誰なんだよ……」
俺は恐る恐る、彼に近寄ってみる。白い体は折れそうなほど細く、今日もやはり、何かの病気にでも冒されているのか、どうにも頼りない。
すぐ側まで寄って、そっと触れてみる。温かい。体温が有る。いや、それより先に、触れられる。
コレは幽霊じゃない! もっと、別のものだ!
俺はそう気付いて、多少気が楽になった。少なくとも俺の知っている幽霊とか自縛霊とか、そういうものでは無さそうだ。それはもっと恐ろしい気もしたが、あまりに非現実的なので、俺の頭は多少マヒしていたらしい。
ただ、触れるとか、体温があるとか。「生き物かもしれない」という憶測は、俺にとってとても心強い者だった。生きてないのに動いているより、はるかに判りやすいし、何より普通の事だ。絶対入って来れない場所に居ても、スッと消えても。
そりゃあ戸締りは完璧のつもりでも、部屋に黒い虫はいつの間にか居やがるし、ギャーと叫んで叩く物を探しているうちに、奴は居なくなっていたりするのだ。それと同じだ。……同じにしては、コイツはやけに儚げで、デカいけども。
「あんた、……俺に、何か言いたいのか?」
尋ねると、彼は僅かに唇を震わせて、やはり、
「みず」
と呟いた。昨日の出来事から、彼が喉が渇いているわけでは無い事を悟っていた俺は、なおも尋ねてみる。
「なあ、水がどうしたんだ? あんた、渇水で死んだとか? それとも溺れて、とか? ……なぁ生霊なのか? あんた、本当は何処に居るんだ?」
息も絶え絶えの相手に、この質問の量は酷かもしれない。俺はそれから黙って、彼を見ていた。彼が少し辛そうだったので、その背中を優しく撫でてもやった。
そうすると、彼は辛うじて。
「水が、……我を、……もとちか、たすけて、くれ」
そう呟いた。
「助ける? どうすればいい?」
「……みず……もとちか、……」
彼は僅かに、腕を動かして、静かにベランダを指差した。俺ははっと気付いて、ベランダに出た。
ベランダには、俺が上京する時に鉢に植えた木が生えている。楠だと聞いた。近所の丘に、大きな大きな楠が生えていて、俺は小さい頃、良くそこで遊んでいた。大きくなっても、良くそこで昼寝などしていた。だから、上京する時、その枝を一本盗んで、鉢に植えてしまったのだ。なんとか根がついたそれは、今では結構な大きさに……。
そして俺は、幽霊の正体が判った気がした。リビングを見ると、彼は、もう居なかった。
彼が求めているのは、水じゃない。
この楠にはちゃんと水をやっているし、日の当たるようにベランダに出している。彼はこの植木を指して助けて欲しいと言ったわけではない。
だとしたら、……やられているのは、本体だ。
俺はすぐにパソコンを立ち上げると、ネットに接続して、故郷の情報を集めた。
そして俺は故郷が異常気象による長雨で、土砂崩れ等に悩まされている事を初めて知った。
二人とも変態。永遠の中二病。
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