日記さえも滞りがちで、ごめんなさい。
なんか妙に忙しいもので……
とりあえずこの間、もそっと考えてた小ネタでも
途中ですが……
ファイル名は太陽の子供で。
なんか妙に忙しいもので……
とりあえずこの間、もそっと考えてた小ネタでも
途中ですが……
ファイル名は太陽の子供で。
それはある晴れた冬の朝の事でした。
長曾我部元親は、身を震わせながら住処の洞窟から顔を出し、外が雪に覆われている事に気付くと、喜んで外に出ました。皮の衣服をいくつも着込んで、元親は一面の雪の上を歩いていました。
「アニキ、今年も冬が来ましたねえ!」
遠くの方で、他の仲間が言いました。元親は「おう」と返事をして、雪の上を歩きます。
岩山に囲まれたその住み難い場所は、鬼族の住処でした。彼ら鬼は、生き物を食うというので毛嫌いされ、そこに追いやられたのです。彼らは日々細々と、迷い込んでくる動物を食べて、生きていました。
元親はその鬼族の長で、今年で二百だか三百だか、とにかく鬼族は数えるのも面倒なぐらい長生きで、そのうえ体も大変丈夫だったので、彼らは特に不満も無く、その岩山に住んで、日々を過ごしていたのでした。
そんな彼らにも退屈は感じられるので、こうして雪や雨で、いつも過ごしている風景が変わると、とても嬉しい気持ちになります。それは何百年生きても変わりません。鬼族は皆、寒がりながらも喜んで雪に飛び出て、その風景を楽しんでいました。
と、元親は雪の中に、何か光る物を見つけました。最初は、雪が光を反射しているのだと思いましたが、近寄ってみるとそれは、何かの卵でした。
元親でも両手に乗せないと持てないほどの、真ん丸な卵です。元親はそっとそれを抱いてみました。まだほんのり温かいのが判りました。
鬼族にとって、卵はご馳走です。これほど大きいのなら、皆で分け合っても楽しめる……元親はそう思いながら、卵に耳を当てます。すると、中から何か、うごめくような音が聞こえます。元親は卵を抱えて、考えました。
さて、食べるべきか、食べないべきか。
元親はとりあえず、皆に相談する事にしました。食べる、という者も居るし、育てようという者も居るし、育てて食べようという者も居ました。さて、どうしたものか、と元親が考えていると、一際歳をとった鬼が言います。
「その卵は、太陽の子供かもしれない」
太陽の子供、というものがなんなのか、元親には判りませんでした。鬼曰く、彼らは太陽の光と水を食べて生きる種族で、自由に空を飛び、全ての生き物に等しく慈愛を注ぐといいます。
「そりゃいいや、食べたら不老長寿になれたりするんじゃないですかい」
他の鬼が言いました。
「ばか、俺達がこれ以上長寿になってどうすんだ」
他の鬼がそう言って、皆は大笑いしました。そして、元親は言います。
「そんないい生き物なら、殺しちゃ申し訳が無ぇや。俺達で大切に育てて、いつか空に返してさしあげようじゃねえか」
他の鬼達も納得して、そしてそれから皆で温かいものをかき集めました。余っている布や、皮を集めて卵を包んだり、元親が自ら抱いて温めたりしました。部屋はいつも火で暖かく、元親には少し暑いくらいでしたが、我慢して卵を温めました。卵の中の音は、日増しに大きくなっているように見えました。日に透かすと、中に何か、生き物が居るのが見えます。
元親は卵を大事に温めて、いつも手放しませんでした。生まれてくる子供の名前はもう決めていました。自分の名前の元を取って、元就にしようと思いました。
冬は厳しく、寒さに震えましたが、元親だけは皆の助けもあって、暖かい部屋で、卵をずっと温めていました。時には鬼の皆も部屋にやって来て、皆で卵を温めました。
子供が生まれたら、鬼と一緒の育て方ではいけないだろう、太陽の子供をどう育てて、どう天に返してやるか。鬼達は毎日話し合っていました。皆が、卵に愛情を注ぎました。
ある寒い日の朝、元親は目を覚まして驚きました。卵が冷たくなっているのです。
「嘘だろ、おい、そんな、」
元親は真っ青になりました。これまであんなに気を使っていたのに、卵は死んでしまったのか……元親は必死に卵を温めましたが、それは冷たいままで、動きもしません。元親は泣きそうになりました。諦めきれず、それからもずっと、卵を抱いていました。
と、
ぴき、
という音が聞こえました。元親はまさかと卵を見ました。卵には、ヒビが入っています。
卵は、もしかして、死んだんじゃなくて。
元親は急に嬉しくなって、それから卵をそっと床に置いて、様子を眺めました。しばらくするとまた、ぴき、と音がして、ヒビが入ります。孵化するのだ、と思うとたまらなくどきどきしました。元親はじっと、その様子を見ていました。
ぱき、と一際大きなヒビが入り、卵に穴が開きました。そこから、小さな手が出てきました。人と変わらない、小さな白い手でした。元親は、頑張れ、もう少しだと声をかけます。しばらくすると、他の鬼達も気付いたのかやって来て、湯を沸かせだとか、綺麗な布を用意しろだとか、慌しくなります。
また卵が割れて、赤子の上半身が卵から出てきました。怪我をしてはいけない、と元親は赤子を抱き上げました。人の子と変わらない、鬼に比べれば随分と脆弱な赤ちゃんでした。背を見ても、羽根は生えていません。はて、人は卵から生まれたんだったか、と元親は首を傾げたほどでした。
体を湯で洗ってやっていると、赤子は泣きました。不思議とぴきゃぁというような、鳥のような鳴き声でした。その不思議な生き物はけれど大層愛らしくて、元親達は皆笑顔で、その赤子を見守りました。
「元就、元就」
元親は元就を抱いて、布に包みながら言います。
「元就、お前は俺達の大事な仲間だ、きっと立派に育ててやるからな」
皆うんうん頷いて、そして、元就が健やかに育つ事を、願ったのでした。
それがどうした事でしょう。
「元就、飯にしようぜ」
「元就、一緒に寝ようぜ」
「元就、一緒に果物を食べようぜ」
一五年の月日が流れた頃、元親がそう言っても、元就は、
「勝手に食え」
とだけ返事をして、ぷいとそっぽを向いているような、ひねくれた子供に成長していたのでした。
どうしてこうなったんだろうか、と元親は時折考え、元就は一人ぼっちだからだ、と結論を出していました。元就はどうあがいても、太陽の子供で、鬼とは異なる生き物だったのです。
動物を食べるのが大好きな鬼と、日の光を浴びるのが大好きな元就。そもそもそこから大きく違っていました。元就は元親達が鳥やウサギを食べるのを酷く恐がっていたし、鬼達の粗暴なところや、簡単に言って少々馬鹿なところをとても嫌っていたのです。元就は鬼に育てられたのに、とても賢く、静かな青年に成長していました。
鬼の領土には、その昔この地に追いやられた時にもってきた、文献や道具が納められた洞窟がありました。鬼達はそういうものに興味が無かったので、長い間放っておかれたのですが、元親が開けて以来、元親は時折その中の道具を使ったりしていました。ですが、元親には文献は読めませんでした。元就はその文献に興味を示して、誰が教えたわけでもないのに、次第に読めるようになったらしく、時折元親にある頁を見せたりしました。そこには道具の作り方が書いてあって、そのとおりにすると、大層便利な道具が出来ました。
元就は鬼達にとってかけがえの無い存在になりました。鬼達は皆で元就を愛しましたが、元就の方は歳を重ねるにつれ、鬼達に心を許さなくなっていきました。
元親達は困りましたが、それでも元就を愛する事は止めませんでした。元就が卵だった時から知っているので、とても愛らしい事には変わりません。それに、鬼の子供にだって難しい時期はあります。元就もそういう時期なのだろうと思いました。
それよりなにより、彼らには大変な問題が有りました。
元就に、どうやって飛び方を教えるか、という事でした。
元就は賢いので、自然に飛び始めるかもしれないと皆思っていました。けれど、かなり成長したのに元就は飛ぶ気配もありません。年寄りの話によれば、彼らは白い輪を掌から作り出して、それを持って空を飛ぶのだそうです。元就がそのような物を作った事もないし、もしかしたらこればかりは本能ではわからないのかもしれない、と元親達は心配していました。
こうなれば、皆で飛び方を教えるしかない……けれど、鬼族は空を飛べません。鬼達は皆、悩んでいました。
凧作りが始まりました。
元就と一緒に飛ぶ練習が出来るように、鬼達が捕まって空が飛べるようなものを作ろうとしたのです。最初は失敗ばかりで、風を受けると壊れてしまったり、全く風に乗れなかったりしました。そんな様子も、元就は冷ややかな顔をして見ていました。
しばらくすると、だいぶいい物が出来るようになって来ました。ぴょいと段差から飛ぶと、風を受けてゆっくりと滑空出きる凧が出来ました。これはいい、と元親はそれをさらに改良して、今度は山の上から飛んでみる事にしました。
凧を手にして、ぴょいと山肌から飛び出します。凧は風を受けて、ふわふわと滑空します。元親も、他の鬼達も大喜びしました。
ところが、上手くいったと思った直後、凧の骨が折れて、元親はまっさかさまに落ちてしまいました。幸いそこには繁みが有ったので、元親は怪我をしただけですみましたが、凧はダメになってしまいました。
元親はしょんぼりして洞窟に戻りました。
するとどうでしょう。いつもつんけんしている元就が、悲しそうな顔をして、元親を見ています。心配ない、ちょっとした怪我だから、と言っても、元就は泣きそうな顔をしたままで、元親は困ってしまいました。
それから元親が何を言っても、元就は返事もしないし、顔も合わせてはくれませんでした。元親は参ってしまいましたが、疲れていたのでそのまま寝る事にしました。皮に包まって眠り、目が覚めると、目の前に本が置かれていて、開いていました。見ると、どうやら傷薬の作り方のようでした。
元親はなんとも言えない気持ちになって、元就に声をかけましたが、元就はやっぱり見向きもしてくれません。それでも、元親はいいと思いました。難しい時期なだけなのです。
新しい凧は頑丈に作られました。今度は元親の体重にも、風にも負けず、元親は無事に山から飛ぶ事が出来ました。ふわふわと風に揺られ、空を飛ぶのはとても怖い事でしたが、それと同時にとても楽しいものでした。元親は地面に降り立って、すぐにみんなにその素晴らしさを伝えました。他の鬼達もこぞって空を飛んで、そのたびにわぁわぁと喜びました。
こんな素晴らしい世界に生きているはずの元就を、いつまでも地面につなぎとめていては申し訳が無い。
元親はそう考えて、すぐに元就の所に行きました。元就、凧が出来たんだ、これで一緒に空を飛べる、なぁ一緒に頑張ろうぜ、きっとお前も空を飛べて、お前の住むべき所に帰る事が出来るんだ。元親はそう言いましたが、元就は難しい顔をしています。
「なぁ、元就、頑張ろう。俺達も一緒に、」
元親はそう言いましたが、元就は急に怒ったような顔をして、
「そんなに我に出て行って欲しいのか!」
と叫んだものだから、びっくりしてしましました。
「何のことだ?」
「我が、我が別の生き物だから、そなたらと違うから、出て行って欲しいのだろう!」
「違ぇよ、そんなわけねぇだろ、だってお前は俺達の大切な仲間だぜ」
「なら何故、我をここから出そうとするのだ!」
元就はわんわんと泣き始めて、元親は困ってしまいました。どうやら、元就との間に、何か意見の食い違いが有ったようでした。
長曾我部元親は、身を震わせながら住処の洞窟から顔を出し、外が雪に覆われている事に気付くと、喜んで外に出ました。皮の衣服をいくつも着込んで、元親は一面の雪の上を歩いていました。
「アニキ、今年も冬が来ましたねえ!」
遠くの方で、他の仲間が言いました。元親は「おう」と返事をして、雪の上を歩きます。
岩山に囲まれたその住み難い場所は、鬼族の住処でした。彼ら鬼は、生き物を食うというので毛嫌いされ、そこに追いやられたのです。彼らは日々細々と、迷い込んでくる動物を食べて、生きていました。
元親はその鬼族の長で、今年で二百だか三百だか、とにかく鬼族は数えるのも面倒なぐらい長生きで、そのうえ体も大変丈夫だったので、彼らは特に不満も無く、その岩山に住んで、日々を過ごしていたのでした。
そんな彼らにも退屈は感じられるので、こうして雪や雨で、いつも過ごしている風景が変わると、とても嬉しい気持ちになります。それは何百年生きても変わりません。鬼族は皆、寒がりながらも喜んで雪に飛び出て、その風景を楽しんでいました。
と、元親は雪の中に、何か光る物を見つけました。最初は、雪が光を反射しているのだと思いましたが、近寄ってみるとそれは、何かの卵でした。
元親でも両手に乗せないと持てないほどの、真ん丸な卵です。元親はそっとそれを抱いてみました。まだほんのり温かいのが判りました。
鬼族にとって、卵はご馳走です。これほど大きいのなら、皆で分け合っても楽しめる……元親はそう思いながら、卵に耳を当てます。すると、中から何か、うごめくような音が聞こえます。元親は卵を抱えて、考えました。
さて、食べるべきか、食べないべきか。
元親はとりあえず、皆に相談する事にしました。食べる、という者も居るし、育てようという者も居るし、育てて食べようという者も居ました。さて、どうしたものか、と元親が考えていると、一際歳をとった鬼が言います。
「その卵は、太陽の子供かもしれない」
太陽の子供、というものがなんなのか、元親には判りませんでした。鬼曰く、彼らは太陽の光と水を食べて生きる種族で、自由に空を飛び、全ての生き物に等しく慈愛を注ぐといいます。
「そりゃいいや、食べたら不老長寿になれたりするんじゃないですかい」
他の鬼が言いました。
「ばか、俺達がこれ以上長寿になってどうすんだ」
他の鬼がそう言って、皆は大笑いしました。そして、元親は言います。
「そんないい生き物なら、殺しちゃ申し訳が無ぇや。俺達で大切に育てて、いつか空に返してさしあげようじゃねえか」
他の鬼達も納得して、そしてそれから皆で温かいものをかき集めました。余っている布や、皮を集めて卵を包んだり、元親が自ら抱いて温めたりしました。部屋はいつも火で暖かく、元親には少し暑いくらいでしたが、我慢して卵を温めました。卵の中の音は、日増しに大きくなっているように見えました。日に透かすと、中に何か、生き物が居るのが見えます。
元親は卵を大事に温めて、いつも手放しませんでした。生まれてくる子供の名前はもう決めていました。自分の名前の元を取って、元就にしようと思いました。
冬は厳しく、寒さに震えましたが、元親だけは皆の助けもあって、暖かい部屋で、卵をずっと温めていました。時には鬼の皆も部屋にやって来て、皆で卵を温めました。
子供が生まれたら、鬼と一緒の育て方ではいけないだろう、太陽の子供をどう育てて、どう天に返してやるか。鬼達は毎日話し合っていました。皆が、卵に愛情を注ぎました。
ある寒い日の朝、元親は目を覚まして驚きました。卵が冷たくなっているのです。
「嘘だろ、おい、そんな、」
元親は真っ青になりました。これまであんなに気を使っていたのに、卵は死んでしまったのか……元親は必死に卵を温めましたが、それは冷たいままで、動きもしません。元親は泣きそうになりました。諦めきれず、それからもずっと、卵を抱いていました。
と、
ぴき、
という音が聞こえました。元親はまさかと卵を見ました。卵には、ヒビが入っています。
卵は、もしかして、死んだんじゃなくて。
元親は急に嬉しくなって、それから卵をそっと床に置いて、様子を眺めました。しばらくするとまた、ぴき、と音がして、ヒビが入ります。孵化するのだ、と思うとたまらなくどきどきしました。元親はじっと、その様子を見ていました。
ぱき、と一際大きなヒビが入り、卵に穴が開きました。そこから、小さな手が出てきました。人と変わらない、小さな白い手でした。元親は、頑張れ、もう少しだと声をかけます。しばらくすると、他の鬼達も気付いたのかやって来て、湯を沸かせだとか、綺麗な布を用意しろだとか、慌しくなります。
また卵が割れて、赤子の上半身が卵から出てきました。怪我をしてはいけない、と元親は赤子を抱き上げました。人の子と変わらない、鬼に比べれば随分と脆弱な赤ちゃんでした。背を見ても、羽根は生えていません。はて、人は卵から生まれたんだったか、と元親は首を傾げたほどでした。
体を湯で洗ってやっていると、赤子は泣きました。不思議とぴきゃぁというような、鳥のような鳴き声でした。その不思議な生き物はけれど大層愛らしくて、元親達は皆笑顔で、その赤子を見守りました。
「元就、元就」
元親は元就を抱いて、布に包みながら言います。
「元就、お前は俺達の大事な仲間だ、きっと立派に育ててやるからな」
皆うんうん頷いて、そして、元就が健やかに育つ事を、願ったのでした。
それがどうした事でしょう。
「元就、飯にしようぜ」
「元就、一緒に寝ようぜ」
「元就、一緒に果物を食べようぜ」
一五年の月日が流れた頃、元親がそう言っても、元就は、
「勝手に食え」
とだけ返事をして、ぷいとそっぽを向いているような、ひねくれた子供に成長していたのでした。
どうしてこうなったんだろうか、と元親は時折考え、元就は一人ぼっちだからだ、と結論を出していました。元就はどうあがいても、太陽の子供で、鬼とは異なる生き物だったのです。
動物を食べるのが大好きな鬼と、日の光を浴びるのが大好きな元就。そもそもそこから大きく違っていました。元就は元親達が鳥やウサギを食べるのを酷く恐がっていたし、鬼達の粗暴なところや、簡単に言って少々馬鹿なところをとても嫌っていたのです。元就は鬼に育てられたのに、とても賢く、静かな青年に成長していました。
鬼の領土には、その昔この地に追いやられた時にもってきた、文献や道具が納められた洞窟がありました。鬼達はそういうものに興味が無かったので、長い間放っておかれたのですが、元親が開けて以来、元親は時折その中の道具を使ったりしていました。ですが、元親には文献は読めませんでした。元就はその文献に興味を示して、誰が教えたわけでもないのに、次第に読めるようになったらしく、時折元親にある頁を見せたりしました。そこには道具の作り方が書いてあって、そのとおりにすると、大層便利な道具が出来ました。
元就は鬼達にとってかけがえの無い存在になりました。鬼達は皆で元就を愛しましたが、元就の方は歳を重ねるにつれ、鬼達に心を許さなくなっていきました。
元親達は困りましたが、それでも元就を愛する事は止めませんでした。元就が卵だった時から知っているので、とても愛らしい事には変わりません。それに、鬼の子供にだって難しい時期はあります。元就もそういう時期なのだろうと思いました。
それよりなにより、彼らには大変な問題が有りました。
元就に、どうやって飛び方を教えるか、という事でした。
元就は賢いので、自然に飛び始めるかもしれないと皆思っていました。けれど、かなり成長したのに元就は飛ぶ気配もありません。年寄りの話によれば、彼らは白い輪を掌から作り出して、それを持って空を飛ぶのだそうです。元就がそのような物を作った事もないし、もしかしたらこればかりは本能ではわからないのかもしれない、と元親達は心配していました。
こうなれば、皆で飛び方を教えるしかない……けれど、鬼族は空を飛べません。鬼達は皆、悩んでいました。
凧作りが始まりました。
元就と一緒に飛ぶ練習が出来るように、鬼達が捕まって空が飛べるようなものを作ろうとしたのです。最初は失敗ばかりで、風を受けると壊れてしまったり、全く風に乗れなかったりしました。そんな様子も、元就は冷ややかな顔をして見ていました。
しばらくすると、だいぶいい物が出来るようになって来ました。ぴょいと段差から飛ぶと、風を受けてゆっくりと滑空出きる凧が出来ました。これはいい、と元親はそれをさらに改良して、今度は山の上から飛んでみる事にしました。
凧を手にして、ぴょいと山肌から飛び出します。凧は風を受けて、ふわふわと滑空します。元親も、他の鬼達も大喜びしました。
ところが、上手くいったと思った直後、凧の骨が折れて、元親はまっさかさまに落ちてしまいました。幸いそこには繁みが有ったので、元親は怪我をしただけですみましたが、凧はダメになってしまいました。
元親はしょんぼりして洞窟に戻りました。
するとどうでしょう。いつもつんけんしている元就が、悲しそうな顔をして、元親を見ています。心配ない、ちょっとした怪我だから、と言っても、元就は泣きそうな顔をしたままで、元親は困ってしまいました。
それから元親が何を言っても、元就は返事もしないし、顔も合わせてはくれませんでした。元親は参ってしまいましたが、疲れていたのでそのまま寝る事にしました。皮に包まって眠り、目が覚めると、目の前に本が置かれていて、開いていました。見ると、どうやら傷薬の作り方のようでした。
元親はなんとも言えない気持ちになって、元就に声をかけましたが、元就はやっぱり見向きもしてくれません。それでも、元親はいいと思いました。難しい時期なだけなのです。
新しい凧は頑丈に作られました。今度は元親の体重にも、風にも負けず、元親は無事に山から飛ぶ事が出来ました。ふわふわと風に揺られ、空を飛ぶのはとても怖い事でしたが、それと同時にとても楽しいものでした。元親は地面に降り立って、すぐにみんなにその素晴らしさを伝えました。他の鬼達もこぞって空を飛んで、そのたびにわぁわぁと喜びました。
こんな素晴らしい世界に生きているはずの元就を、いつまでも地面につなぎとめていては申し訳が無い。
元親はそう考えて、すぐに元就の所に行きました。元就、凧が出来たんだ、これで一緒に空を飛べる、なぁ一緒に頑張ろうぜ、きっとお前も空を飛べて、お前の住むべき所に帰る事が出来るんだ。元親はそう言いましたが、元就は難しい顔をしています。
「なぁ、元就、頑張ろう。俺達も一緒に、」
元親はそう言いましたが、元就は急に怒ったような顔をして、
「そんなに我に出て行って欲しいのか!」
と叫んだものだから、びっくりしてしましました。
「何のことだ?」
「我が、我が別の生き物だから、そなたらと違うから、出て行って欲しいのだろう!」
「違ぇよ、そんなわけねぇだろ、だってお前は俺達の大切な仲間だぜ」
「なら何故、我をここから出そうとするのだ!」
元就はわんわんと泣き始めて、元親は困ってしまいました。どうやら、元就との間に、何か意見の食い違いが有ったようでした。
PR
■ この記事にコメントする
プロフィール
Google Earthで秘密基地を探しています
HN:
メディアノクス
性別:
非公開
趣味:
妄想と堕落
自己紹介:
浦崎谺叉琉と美流=イワフジがてんやわんや。
二人とも変態。永遠の中二病。
二人とも変態。永遠の中二病。
カレンダー
12 | 2025/01 | 02 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | |||
5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 |
12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
カテゴリー
メロメロパーク
ひつじです。
ブログ内検索
最新コメント
[02/11 美流]
[02/10 通りすがリィ]
[02/10 通りすがリィ]
[07/28 谷中初音町]
[07/02 美流]
最新記事
(04/26)
(04/26)
(04/23)
(04/21)
(04/20)
カウンター
"オクラサラダボウル"