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めでぃのくの日記
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2008-11-24 (Mon)
 日記さえも滞りがちで、ごめんなさい。
 なんか妙に忙しいもので……
 とりあえずこの間、もそっと考えてた小ネタでも
 途中ですが……

 ファイル名は太陽の子供で。

 それはある晴れた冬の朝の事でした。

 長曾我部元親は、身を震わせながら住処の洞窟から顔を出し、外が雪に覆われている事に気付くと、喜んで外に出ました。皮の衣服をいくつも着込んで、元親は一面の雪の上を歩いていました。

「アニキ、今年も冬が来ましたねえ!」

 遠くの方で、他の仲間が言いました。元親は「おう」と返事をして、雪の上を歩きます。

 岩山に囲まれたその住み難い場所は、鬼族の住処でした。彼ら鬼は、生き物を食うというので毛嫌いされ、そこに追いやられたのです。彼らは日々細々と、迷い込んでくる動物を食べて、生きていました。

 元親はその鬼族の長で、今年で二百だか三百だか、とにかく鬼族は数えるのも面倒なぐらい長生きで、そのうえ体も大変丈夫だったので、彼らは特に不満も無く、その岩山に住んで、日々を過ごしていたのでした。

 そんな彼らにも退屈は感じられるので、こうして雪や雨で、いつも過ごしている風景が変わると、とても嬉しい気持ちになります。それは何百年生きても変わりません。鬼族は皆、寒がりながらも喜んで雪に飛び出て、その風景を楽しんでいました。

 と、元親は雪の中に、何か光る物を見つけました。最初は、雪が光を反射しているのだと思いましたが、近寄ってみるとそれは、何かの卵でした。

 元親でも両手に乗せないと持てないほどの、真ん丸な卵です。元親はそっとそれを抱いてみました。まだほんのり温かいのが判りました。

 鬼族にとって、卵はご馳走です。これほど大きいのなら、皆で分け合っても楽しめる……元親はそう思いながら、卵に耳を当てます。すると、中から何か、うごめくような音が聞こえます。元親は卵を抱えて、考えました。

 さて、食べるべきか、食べないべきか。

 元親はとりあえず、皆に相談する事にしました。食べる、という者も居るし、育てようという者も居るし、育てて食べようという者も居ました。さて、どうしたものか、と元親が考えていると、一際歳をとった鬼が言います。

「その卵は、太陽の子供かもしれない」

 太陽の子供、というものがなんなのか、元親には判りませんでした。鬼曰く、彼らは太陽の光と水を食べて生きる種族で、自由に空を飛び、全ての生き物に等しく慈愛を注ぐといいます。

「そりゃいいや、食べたら不老長寿になれたりするんじゃないですかい」

 他の鬼が言いました。

「ばか、俺達がこれ以上長寿になってどうすんだ」

 他の鬼がそう言って、皆は大笑いしました。そして、元親は言います。

「そんないい生き物なら、殺しちゃ申し訳が無ぇや。俺達で大切に育てて、いつか空に返してさしあげようじゃねえか」

 他の鬼達も納得して、そしてそれから皆で温かいものをかき集めました。余っている布や、皮を集めて卵を包んだり、元親が自ら抱いて温めたりしました。部屋はいつも火で暖かく、元親には少し暑いくらいでしたが、我慢して卵を温めました。卵の中の音は、日増しに大きくなっているように見えました。日に透かすと、中に何か、生き物が居るのが見えます。

 元親は卵を大事に温めて、いつも手放しませんでした。生まれてくる子供の名前はもう決めていました。自分の名前の元を取って、元就にしようと思いました。

 冬は厳しく、寒さに震えましたが、元親だけは皆の助けもあって、暖かい部屋で、卵をずっと温めていました。時には鬼の皆も部屋にやって来て、皆で卵を温めました。

 子供が生まれたら、鬼と一緒の育て方ではいけないだろう、太陽の子供をどう育てて、どう天に返してやるか。鬼達は毎日話し合っていました。皆が、卵に愛情を注ぎました。


 ある寒い日の朝、元親は目を覚まして驚きました。卵が冷たくなっているのです。

「嘘だろ、おい、そんな、」

 元親は真っ青になりました。これまであんなに気を使っていたのに、卵は死んでしまったのか……元親は必死に卵を温めましたが、それは冷たいままで、動きもしません。元親は泣きそうになりました。諦めきれず、それからもずっと、卵を抱いていました。

 と、

 ぴき、

 という音が聞こえました。元親はまさかと卵を見ました。卵には、ヒビが入っています。

 卵は、もしかして、死んだんじゃなくて。

 元親は急に嬉しくなって、それから卵をそっと床に置いて、様子を眺めました。しばらくするとまた、ぴき、と音がして、ヒビが入ります。孵化するのだ、と思うとたまらなくどきどきしました。元親はじっと、その様子を見ていました。

 ぱき、と一際大きなヒビが入り、卵に穴が開きました。そこから、小さな手が出てきました。人と変わらない、小さな白い手でした。元親は、頑張れ、もう少しだと声をかけます。しばらくすると、他の鬼達も気付いたのかやって来て、湯を沸かせだとか、綺麗な布を用意しろだとか、慌しくなります。

 また卵が割れて、赤子の上半身が卵から出てきました。怪我をしてはいけない、と元親は赤子を抱き上げました。人の子と変わらない、鬼に比べれば随分と脆弱な赤ちゃんでした。背を見ても、羽根は生えていません。はて、人は卵から生まれたんだったか、と元親は首を傾げたほどでした。

 体を湯で洗ってやっていると、赤子は泣きました。不思議とぴきゃぁというような、鳥のような鳴き声でした。その不思議な生き物はけれど大層愛らしくて、元親達は皆笑顔で、その赤子を見守りました。

「元就、元就」

 元親は元就を抱いて、布に包みながら言います。

「元就、お前は俺達の大事な仲間だ、きっと立派に育ててやるからな」

 皆うんうん頷いて、そして、元就が健やかに育つ事を、願ったのでした。





 それがどうした事でしょう。

「元就、飯にしようぜ」

「元就、一緒に寝ようぜ」

「元就、一緒に果物を食べようぜ」

 一五年の月日が流れた頃、元親がそう言っても、元就は、

「勝手に食え」

 とだけ返事をして、ぷいとそっぽを向いているような、ひねくれた子供に成長していたのでした。





 どうしてこうなったんだろうか、と元親は時折考え、元就は一人ぼっちだからだ、と結論を出していました。元就はどうあがいても、太陽の子供で、鬼とは異なる生き物だったのです。

 動物を食べるのが大好きな鬼と、日の光を浴びるのが大好きな元就。そもそもそこから大きく違っていました。元就は元親達が鳥やウサギを食べるのを酷く恐がっていたし、鬼達の粗暴なところや、簡単に言って少々馬鹿なところをとても嫌っていたのです。元就は鬼に育てられたのに、とても賢く、静かな青年に成長していました。

 鬼の領土には、その昔この地に追いやられた時にもってきた、文献や道具が納められた洞窟がありました。鬼達はそういうものに興味が無かったので、長い間放っておかれたのですが、元親が開けて以来、元親は時折その中の道具を使ったりしていました。ですが、元親には文献は読めませんでした。元就はその文献に興味を示して、誰が教えたわけでもないのに、次第に読めるようになったらしく、時折元親にある頁を見せたりしました。そこには道具の作り方が書いてあって、そのとおりにすると、大層便利な道具が出来ました。

 元就は鬼達にとってかけがえの無い存在になりました。鬼達は皆で元就を愛しましたが、元就の方は歳を重ねるにつれ、鬼達に心を許さなくなっていきました。

 元親達は困りましたが、それでも元就を愛する事は止めませんでした。元就が卵だった時から知っているので、とても愛らしい事には変わりません。それに、鬼の子供にだって難しい時期はあります。元就もそういう時期なのだろうと思いました。

 それよりなにより、彼らには大変な問題が有りました。

 元就に、どうやって飛び方を教えるか、という事でした。



 元就は賢いので、自然に飛び始めるかもしれないと皆思っていました。けれど、かなり成長したのに元就は飛ぶ気配もありません。年寄りの話によれば、彼らは白い輪を掌から作り出して、それを持って空を飛ぶのだそうです。元就がそのような物を作った事もないし、もしかしたらこればかりは本能ではわからないのかもしれない、と元親達は心配していました。

 こうなれば、皆で飛び方を教えるしかない……けれど、鬼族は空を飛べません。鬼達は皆、悩んでいました。




 凧作りが始まりました。

 元就と一緒に飛ぶ練習が出来るように、鬼達が捕まって空が飛べるようなものを作ろうとしたのです。最初は失敗ばかりで、風を受けると壊れてしまったり、全く風に乗れなかったりしました。そんな様子も、元就は冷ややかな顔をして見ていました。

 しばらくすると、だいぶいい物が出来るようになって来ました。ぴょいと段差から飛ぶと、風を受けてゆっくりと滑空出きる凧が出来ました。これはいい、と元親はそれをさらに改良して、今度は山の上から飛んでみる事にしました。

 凧を手にして、ぴょいと山肌から飛び出します。凧は風を受けて、ふわふわと滑空します。元親も、他の鬼達も大喜びしました。

 ところが、上手くいったと思った直後、凧の骨が折れて、元親はまっさかさまに落ちてしまいました。幸いそこには繁みが有ったので、元親は怪我をしただけですみましたが、凧はダメになってしまいました。

 元親はしょんぼりして洞窟に戻りました。

 するとどうでしょう。いつもつんけんしている元就が、悲しそうな顔をして、元親を見ています。心配ない、ちょっとした怪我だから、と言っても、元就は泣きそうな顔をしたままで、元親は困ってしまいました。

 それから元親が何を言っても、元就は返事もしないし、顔も合わせてはくれませんでした。元親は参ってしまいましたが、疲れていたのでそのまま寝る事にしました。皮に包まって眠り、目が覚めると、目の前に本が置かれていて、開いていました。見ると、どうやら傷薬の作り方のようでした。

 元親はなんとも言えない気持ちになって、元就に声をかけましたが、元就はやっぱり見向きもしてくれません。それでも、元親はいいと思いました。難しい時期なだけなのです。




 新しい凧は頑丈に作られました。今度は元親の体重にも、風にも負けず、元親は無事に山から飛ぶ事が出来ました。ふわふわと風に揺られ、空を飛ぶのはとても怖い事でしたが、それと同時にとても楽しいものでした。元親は地面に降り立って、すぐにみんなにその素晴らしさを伝えました。他の鬼達もこぞって空を飛んで、そのたびにわぁわぁと喜びました。

 こんな素晴らしい世界に生きているはずの元就を、いつまでも地面につなぎとめていては申し訳が無い。

 元親はそう考えて、すぐに元就の所に行きました。元就、凧が出来たんだ、これで一緒に空を飛べる、なぁ一緒に頑張ろうぜ、きっとお前も空を飛べて、お前の住むべき所に帰る事が出来るんだ。元親はそう言いましたが、元就は難しい顔をしています。

「なぁ、元就、頑張ろう。俺達も一緒に、」

 元親はそう言いましたが、元就は急に怒ったような顔をして、

「そんなに我に出て行って欲しいのか!」

 と叫んだものだから、びっくりしてしましました。

「何のことだ?」

「我が、我が別の生き物だから、そなたらと違うから、出て行って欲しいのだろう!」

「違ぇよ、そんなわけねぇだろ、だってお前は俺達の大切な仲間だぜ」

「なら何故、我をここから出そうとするのだ!」

 元就はわんわんと泣き始めて、元親は困ってしまいました。どうやら、元就との間に、何か意見の食い違いが有ったようでした。

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